夏だけ動くリフトが残る廃ゲレンデ|志賀高原・前山スキー場跡を歩く|1959-2009の記録

夏にしか動かないリフトが、かつてのゲレンデを見下ろしている。
志賀高原の一角に、2009年ごろまで営業していた「前山スキー場」というゲレンデがあります。
今は冬に滑ることはできませんが、リフトだけが「前山サマーリフト」と名前を変えて、ハイキング客を運び続けています。
閉鎖されたスキー場は、どんな斜面だったのか。なぜ滑られなくなったのか。そして今、その斜面はどうなっているのか。
現地に行って、実際にリフトに乗り、コース跡だったと思われる場所まで歩いてきました。地図や文献だけでは分からなかったことが、肌で感じて分かった記録です。
夏の志賀高原・渋峠から、前山スキー場を探す
スタートは長野県の渋峠。日本でもっとも標高の高い場所にあるスキー場として知られ、夏も営業しています。
夏のスキー場は、とにかく涼しい。それだけでも来る価値はあるのですが、今回の目当ては渋峠そのものではありません。
▲ 0:06〜 夏営業中の渋峠。標高が高く、真夏でも空気がひんやりしている
狙いは、逆に「夏にしかリフトが動いていない」場所。かつてスキー場だった前山です。
渋峠からは前山を見下ろせる位置関係になっているのですが、訪れた日はガスに包まれていて、肝心の斜面はほとんど見えませんでした。
古いゲレンデマップに残る「前山スキー場」
こういう場所を訪ねるときに毎回持っていくのが、当時のスキー場マップです。今回も{ユーザーの専門知見: 使用したスキーマップの正式名称と発行年を確認して追記}を持参しました。
この本には志賀高原の情報がかなり細かく載っていて、今より明らかにスキー場の数が多いことが分かります。
当時の志賀高原は21スキー場・84コース。今いる渋峠の名称も、現在とは違う呼ばれ方をしていました。
▲ 1:35〜 21スキー場・84コース。今より多くのゲレンデが載っている
前山Aコースのスペックを読み解く
マップ上で前山スキー場は18番。メインは「前山Aコース」です。
- 滑走距離:321m
- 平均斜度:20°
- 熊の湯側の斜面に位置し、横手山からも滑り込める
- ゲレンデ中央を走る、ねじれのない一枚バーン
注目したいのは「ねじれのない一枚バーン」という表現です。
斜面がうねっていないということは、板を同じ角度で走らせ続けられるということ。つまり、練習には最適な斜面だったと考えられます。
さらにリフト沿いには新雪やコブが残されていたという記述もありました。一枚バーンでの整地滑走も、コブも、両方できたということです。
ワタルこの条件、かなり良いですよ。整地の基礎練習も、コブの練習も、同じリフトで回せるゲレンデはそう多くありません。
志賀高原全体で見ると、かなり小さな存在
ただし、志賀高原という広大なエリア全体で見ると、前山が占める面積はごくわずかです。
シャトルバスを使いこなせば志賀高原はほぼ全域を回れますが、前山は本当にここだけで完結する規模。「前山だけを滑りに来る人」は、おそらく多くはなかったはずです。
- 前山Aコースは滑走距離321m・平均斜度20°
- ねじれのない一枚バーンで練習向き
- リフト沿いには新雪やコブも残されていた
現在の姿は「前山サマーリフト」
前山スキー場は、1959年ごろから2009年ごろまで営業されていたとされています。
ただし開業時期については「不明」としている文献もあり、正確なところは断定できません。{ユーザーの専門知見: 営業期間の出典(文献名・資料名)を確認して追記}
現在このリフトは「前山サマーリフト」という名称に変わっていて、夏に動かすことを前提とした運用になっています。
▲ 6:28〜 ホテルのすぐ目の前にリフト乗り場がある
冬に動かすことがないため、搬器の位置を下げた状態で回しているのが特徴です。日除けが付いていたりと、完全に夏仕様。
正直、こんなリフトは冬のスキー場ではまず見かけません。
- リフト料金:片道600円
- 徒歩20分の区間を約4分で登れる
- 現在はハイキングコースの一部として運用
地元の方に話を聞いたところ、ハイキング目的で登る人がほとんどとのこと。
実際、登ろうとしたら「景色を見たいなら横手山の上から見たほうが分かりやすいし、わざわざ登るまでもない」と止められたくらいです。
閉鎖されたスキー場を目当てに来る人は、まずいないのでしょうね。
リフトを降りて歩いて分かったこと
山頂まで上がってみると、景色自体は悪くありません。
ただ、正直に言えば横手山の上から見たほうが眺望は上です。ガスっていて何も見えないときの代替としてはアリ、という程度でしょうか。
▲ 9:18〜 山頂付近。ハイキングの中継地点として機能している
斜度は、文献の20°より急に感じた
下まで降りて斜面を見上げたとき、いちばん驚いたのが斜度です。
文献には平均20°とありましたが、体感ではもう少しある。急なところは30°近いのではないかと感じました。
▲ 18:50〜 なだれ防止柵のある左側が、かつての滑走コースだったと思われる
斜度の感覚は映像では本当に伝わりにくいのですが、初心者にはまったくおすすめできない斜面です。
止まりきれなければ、麓のホテルにそのまま突っ込むような立地でもあります。
雰囲気としては菅平の{ユーザーの専門知見: 「シーハイルコース」の正式名称とスキー場名を確認}に近い印象。地形にクセがなく、きれいな一枚バーンという意味では{ユーザーの専門知見: 比較対象として挙げたスノーリゾート名を確認}にも似ています。
日当たりが良すぎて、雪解けは早かったはず
歩いていて強く感じたのが、日差しの当たり方です。
この斜面、太陽がフルに当たります。訪れたのは9月中旬なので冬の太陽の位置とは異なりますが、それを差し引いても日照時間はかなり長そうでした。
一方、隣の熊の湯側は日陰になっている時間が長い。前山は雪解けが早かったのではないかと思います。
ワタルいちばん斜度が良い斜面は、たいてい日当たりも良いんですよね。周囲の木を少し残して日陰を作ると雪が持ちやすくなる。雪を確保するのもスキー場の大事な仕事です。
初心者迂回コースだったかもしれない道
山頂から歩いて降りる途中、緩やかな一本道がありました。
キャタピラの跡が残っていたので、今は運搬車の通路として使われているようです。
▲ 13:30〜 夏は運搬路、冬は迂回コースだったのかもしれない
リフト係員の方は「コースは2本」とおっしゃっていましたが、この道も冬は初心者用の迂回コースとして使われていたとすれば、実質3本あった可能性もあります。
あるいは、横手山スキー場側へアクセスするための連絡路だったのかもしれません。ここは断定できないところです。
- 体感の斜度は文献の20°より急
- 日当たりが良く、雪解けは早かったと推測
- 迂回コースらしき道も残っている
休止後に起きた雪崩と、閉鎖されたゲレンデのその後
麓まで降りてくると、新しめのなだれ防止柵が目に入りました。
スキー場の休止から1〜2年ほど経ったころ、この斜面で雪崩が発生し、目の前のホテルに雪が突っ込む事故があったというニュースを見つけています。
▲ 16:55〜 柵は比較的新しい。上部にも同じ柵が設置されている
この柵は、おそらくその事故を受けて設置されたものでしょう。同じ被害を繰り返さないための対策が、しっかり取られている印象でした。
「休止してそのまま」が抱える問題
スキー場が運営管理されなくなると、そこは「ただ雪が積もるだけの斜面」になります。
本来なら木々が生えていて雪崩になりにくい地形でも、人間が切り開いた場所は違う。休止してそのまま放置するのは、本来あまり良いことではないのだと思います。
現在の前山のコース跡には木が生えてきていますが、周囲と比べると明らかに背が低く、生え方もまばらです。
植林されたというより、自然に生えてきたように見えました。休止からまだ20年ほどですから、そう考えるのが自然でしょう。
閉鎖後にどう戻すのか。これはスキー場単体では解決しにくい、難しい問題だと感じます。
前山スキー場は、どんな人に向いたゲレンデだったのか
全長はおよそ306mほどだったとされ、飛ばして滑れば数十秒で降りきってしまう規模です。
リフト係員の方によると、滑りやすい上級コースが1本と、初心者コースが1本という構成だったとのこと。
この規模感で家族旅行に来て一日中滑り回す、というのは考えにくい。志賀高原を周遊するなかの中継ポイントとしての役割が大きかったのだと思います。
逆に言えば、同じ斜面を繰り返し滑って練習したい人には、かなり向いていたゲレンデです。
ねじれのない一枚バーンで、適度な斜度があり、コブも新雪も残る。人が少なければ、これほど練習しやすい環境もありません。
ワタルもし現役で残っていたら、僕はかなりハマっていたと思います。コアなスキーヤー向けのゲレンデ、という表現がしっくりきますね。
よくある質問
前山スキー場は今も滑れますか?
滑れません。スキー場としての営業は2009年ごろに終了しており、現在はリフトが夏季のみ「前山サマーリフト」として稼働しています。
前山サマーリフトは誰でも乗れますか?
乗れます。片道600円で、主にハイキング利用の方が使っています。徒歩で20分ほどかかる区間を約4分で登れます。料金・運行期間は変わる可能性があるため、事前にご確認ください。
リフトに乗らず歩いて登れますか?
距離だけ見れば歩ける範囲ですが、足場が良いとは言えず、山道に慣れていない方には転倒などのリスクがあります。実際に歩いてみた立場としては、素直にリフトを使うことをおすすめします。
コースは何本あったのですか?
リフト係員の方によると上級1本・初心者1本の計2本です。ただし現地には緩やかな迂回路のような道も残っており、実際にはもう1本あった可能性も考えられます。
まとめ:現地に行かないと分からないことがある
雪崩事故があったこと、柵が設置されたこと。そういった事実は調べれば出てきます。
でも、どんな斜面だったのか、どんなスキーヤーに使われていたのかは、現地に立ってみないと分かりません。
- 1959年ごろ〜2009年ごろに営業していた
- 全長306m前後、ねじれのない一枚バーン
- 現在は夏のみ「前山サマーリフト」として稼働
- 練習好きなスキーヤーには相性の良い斜面だった
スキー場の経営は年々厳しくなっています。前山のように、静かに役目を終えていくゲレンデもあります。
それでも「あそこ懐かしいな」と思い出して、この冬もう一度スキーをやってみようと思ってくれる人が一人でも増えたら。そう思ってこういう記録を残しています。
▲ 20:11〜 役目を終えた斜面を、実際に歩いて確かめてきた
もしこの時代に前山周辺を滑りまくっていたという方がいらっしゃれば、ぜひコメントで教えてください。当時の記憶こそが、いちばん確かな資料になります。
SnowHubでは現役のスキーインストラクターとして、イベントやスキークラブの運営もしています。久しぶりに滑りを楽しみたい方は、こちらもぜひのぞいてみてください。

